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走レ、ニイト(上) ちくわ文庫

ニイトは激怒した。

必ず、かの邪智暴虐のセドラゥを除かなければばらぬと決意した。

ニイトには商売がわからぬ。
ニイトは、無職の村民である。

キーボードを叩き、ネットと遊んで暮らして来た。

けれども流行りに対しては、人一倍に敏感であった。

きょう未明ニイトは家を出発し、野を越え山越え、
十里はなれた此の古本の街にやって来た。

ニイトには父も、母も無い。女房も無い。
ひとり、ネット古書店を、細々とやっているのだ。

ニイトは、村の或る一枚の請求書を、近々、納めることになっていた。
納税期限も間近かなのである。

ニイトは、それゆえ、転売できそうな古書や回転本やらを買いに、はるばる街にやって来たのだ。
先ず、その品々を買い集め、それから都の大路をぶらぶら歩いた。

ニイトには竹馬の友があった。

セドリンティウスである。

今は此の古本の街で、情報販売屋をしている。
その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。

久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。
歩いているうちにニイトは、まちの様子を怪しく思った。

ひっそりしている。

もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当たりまえだが、
けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、街全体が、やけに寂しい。

のんきなニイトも、だんだん不安になって来た。

路で逢った若い衆をつかまえて、何かあったのか、
二年まえに此の街に来たときは、夜でも皆がうたって、まちは賑やかであった筈だが、
と質問した。

若い衆は、首を振って答えなかった。

しばらく歩いて老爺に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。

老爺は答えなかった。

ニイトは両手で老爺のからだをゆすぶって質問を重ねた。

老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。

「携帯でのサーチは、禁止です。」

「なぜ禁止なのだ。」

「悪心を抱いている、というのですが、皆の者が、悪心を持っては居りませぬ。」

「たくさんの本が抜かれたのか。」

「はい、はじめは専門書を。それから、回転本を。
それから、小説を。それから、新書と文庫を。
それから、雑誌と週刊誌を。それから児童書を。
それから、コミックを。それから、函本を。それから、1円本を。
それから、ストッカー開け閉めを。それから、古本出しっ放しを。
それから、ストッカー隠しを。それから、カゴ放置を。
それから、値札カリカリを。それから、同業同士での喧嘩を。
それから、横柄な態度を。それから、値札の張り替えを。」

「おどろいた。セドラゥは乱心か。」

「いいえ、乱心ではございませぬ。
どんな手をつかってでも、仕入れをすることが重要だ、というのです。
このごろは、ライバルの一挙手一投足をも、ご観察になり、少なしく派手な仕入れをしている者には、
隙を見計らい、足下のカゴから、めぼしいものを横取りするのです。
今日は六冊抜かれました。」

聞いて、ニイトは激怒した。

「呆れたセドラゥだ。生かして置けぬ。」

ニイトは、単純な男であった。

買い物を、背負ったままで、のそのそ商店にはいって行った。
たちまち彼は、入り口付近のゲートにかかり捕縛された。
調べられて、ニイトの懐中からはバゥコゥドが出て来たので、
騒ぎが大きくなってしまった。

ニイトは、店主の前に引き出された。

「このバゥコゥドで何をするつもりであったか。言え!」

暴君オフは静かに、けれども権威を以て問いつめた。
その店主の顔は蒼白で、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった。

「街をセドラゥの手から救うのだ。」 とニイトは悪びれずに答えた。

「おまえがか?」 店主は、憫笑した。
「仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの怒りがわからぬ。」

「言うな!」 とニイトは、いきり立って反駁した。
「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。 店主は、顧客の良心をさえ疑って居られる。」

「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。
人の心は、あてにならない。人間は、もともと私欲のかたまりさ。
信じては、ならぬ。」

店主は落着いて呟き、ほっと溜息をついた。

「わしだって、売上げを望んでいるのだが。」

・・・

つづく。 かもしれない。

あとがき。

※この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです。

という訳で、こんばんは。
そして太宰治ファンの皆様ごめんなさい。

ある一時期、非常にマナーの悪いセドラゥが増殖したせいか、
一部の小売店(書店に限らず)では、バーコードや携帯での商品サーチを禁止するところがありますね。

自分のいる地域では、まだ珍しいほうなのですが、
バーコードNGが1店舗、携帯(手打ち)もアウトが1店舗。

かと思えば、明らかにせどらーも、ターゲットに商売しているお店もあります。

ウチの地域は、まだこちらのタイプが多い状況ですが。
要は、店主や店員がどう思うかなのでしょう。

先に書いた、ある一時期、
いつもどおり迷惑にならぬように気をつけて物色していたつもりのある日、

「あの人まだいるの?」「そこの棚の裏・・・。チッ。」
という、会話が聞こえてきました。

「俺のことかぁぁぁぁーーーー(jдj)!!!1」

なんと悔しかったことか。

私のらいおんハートはポキッと折れたのでした。

それからしばらくして、一時期ほどセドラゥがいなくなった影響(?)なのか、
お店へ行くと、以前のようにまた挨拶をしてくれるようになった。

先日には、熱い舌打ちをくれた店員さんが、
棚補充前の単行本の山を、こちらもどうですか。
と声をかけてくれた。

なんと嬉しかったことか。

ちなみに、ISBNなしの古い古書ばかりだったので、丁重に辞退させていただいた。

相手に敬意を払えば、気にかけてもらうこともできる。
相手に悪意で接すれば、ゴミ虫のように邪険に扱われる。

挨拶をされたら、「こんにちは。」と笑顔を返そう。
丁寧に袋詰めをしてくれたら、一言「ありがとう御座います。」とお礼を言おう。

あなたが取った態度や行動、それは必ず自分へと帰ってくるのだから。

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2013年5月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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